【感想】魔法使いの娘ニ非ズ

前回感想を書いた「魔法使いの娘」の続編です。前作が、初音の実の両親の死にまつわる秘密を紐解きながら、無山の思考に少しずつ踏み込んでいく……という大筋があったことと比較すると、本作はそういう「大きな伏線を解き明かす」的な要素は少なめです。

前作で登場したキャラクターたちは、陰陽師として半人前の初音に寄り添ってくれていて、なんというか、親はいないけれど周りはみんな初音を思ってくれている、ということは伝わります。初音自身が優しくしたこと(本人にその気はなくとも)が、まわりまわって初音に帰ってくる、というのは心が温まります。

今作ではさらに、ピンチの時にはお父さん(本物)が兵吾の体に憑依してくれます。強い。

7巻に入るまでは本当に無山は存在感が薄いんですが、終盤ではやはりその強さを見せつけてくれます。あらためて、無山に対しては「大きな力を持ちすぎてしまった子供」という印象を受けました。ただ、前作で示唆されていた通り、無山を子供ではなく、一介の天才陰陽師として育て上げてきたのは周りであり、それは無山だけの責任とは決して言えません。だからこそ、そのけじめをつけるためにジュニアも無山のそばにいるんですよね。

本作でももちろん妖怪や化け物たちはその力を存分に発揮しますが、前作以上に、「人間を人間たらしめている部分」について、精緻に描かれていると感じました。

 

全巻読み終えてみると、好きなキャラは1位:無畏・2位:兵吾・3位・ジュニア……って感じでした。個人的にはもっと小八汰と初音の絡みが見たかったな、と思いますが、小八汰が初音の式となった以上難しいということもわかります。ジュニアは本作で出番が増えたほうで、仁義を押し通す性格がいいな~と感じました(老人ホームに麻雀教えにいったりしてるのがもうドツボです(?!))。無畏のことは顔が好きすぎて困ります。これはマジ。

 いつか無山と初音が「普通の親子」になってるところを見たいな、とは思いつつも、綺麗な終わり方だったと思います。おすすめの漫画です。

【感想】魔法使いの娘

小さい頃からずっと好きだった作品なのですが、夏休みということで改めて読み返してみました。那州雪絵先生といえば代表作は「ここはグリーンウッド」でしょうか。


物語は、生活能力は絶無だが陰陽師としての実力は最上級、という義理の父と暮らしながら、その仕事に巻き込まれていく……というのが大筋です。主人公の初音は父の仕事を継ぎたくないものの、父・無山は継がせる気満々。

本作はサブキャラクターが個性的で、なかでも兵吾・小八汰・朋絵ちゃん・無畏の4人が大好きです。1話では割と使い捨てキャラぽい登場の仕方のわりに、最後までずっと初音のそばにいる兵吾はかなり好感が持てました。登場キャラクターが比較的人間の心がないがちなので、兵吾みたいなキャラがメインに一人いると安心しますね(?)


絵柄としては、細やかで美麗!みたいな感じとは違うものの、画面が非常に読みやすく簡潔だと思います。時代に左右されない絵柄なので、連載開始当初から20年弱経っていても全く抵抗なく読めます。男性キャラの描き分けが微妙に感じる点はたまにありますが、作中で大量に出てくる妖怪・化け物の種類は非常に豊富です。

作中では、「化け物」と「人間」の違いが丁寧に描かれていると感じました。化け物は人から見てかなり非倫理的な行動を取るのですが、彼らは彼らなりのポリシーで動いていることもあり、人間のエゴにハッと気付かせられるような話もあります。化け物には化け物の情があったり、それとも全くなかったり。

そんな化け物と人間の中間にぽつんと立っているのが、初音の父・無山です。初音にとって無山は育ての親であり、大切な「パパ」でありながらも、同時に絶対に越えなくてはならない壁です。初音の成長は無山と切って離すことはできません。


初音の成長を描いた作品ですが、初音が歩みを進めることで兵吾も進み、そして無山との別れや真実を知る日がやってくる……、という構図に、少年漫画的な熱血要素ではなく、日常から脱しきってはいないゆるめの(けどしっかり怖い)ホラーが混ざって新感覚です。

初音は見ていると人生頑張らなきゃなーと思えます。「魔法使いの娘ニ非ズ」のほうも感想を書いていきたいです。

【感想】女の園の星 1巻

満足度:★★★★★

以前「夢中さ、きみに。」という短編集がTwitterでバズった際、和山やま先生の存在を知りました。同作が非常にゆるいテンポで、キャラクターを無理なく等身大に描いている点がとても魅力的だったので、初連載という「女の園の星」を買ってみました。

 おもに、「女の園」こと女子高において教師を務める星先生の視点で物語は進みます。一話完結式のオムニバスぽい感じです。いわゆる「女子高ノリ」を少し俯瞰して外側から眺められるような楽しみがあります。

 

よかったところ

・絵柄。星先生は作中でとりたててハンサムと持て囃される描写はないですが、キレイな顔をしています。とくに死んだ目と、意外にも表情が豊かで笑顔がめっちゃくちゃに可愛いです。星先生以外のキャラクターもリアルなタッチで描かれており、「動物のお医者さん」等が好きだった方には話・絵柄ともに刺さりそうです。

・空気感。たとえばクラスでちょっと浮いてる(けどいじめられたりしてるわけではない)女の子や、星先生が教室にやってきたときの女の子たちの一瞬黙る空気、声をかけても店員に届かないもどかしさといった日常の些細な風景を、切り取るのではなく流れるように描写していて、1コマ1コマじっくりと読みたくなります。

・キャラクターが立っている点。星先生はずれた感性を持っていて浮世離れしていますが、だからといって孤立しているわけではありません。星先生によく絡んでくる小林先生も、突っ込み役だけどボケもこなせます。キャラクターを多面的に描いていて読んでいると親しみがわきます。

 

大事件が起こったりするタイプの起承転結ある漫画ではないですが、「このキャラたちはどんな生活を過ごしているんだろう」ともっと読みたくなる、素敵な作品でした。

【感想】異国館ダンディ

満足度:★★★☆☆


花とゆめで1990年代に連載されていた作品ぽいです。電子書籍化はされていませんが中古で安価に手に入ります。全8巻で、ほぼ全ての巻にそこそこのボリュームの読み切り作品あり。


ざっくりとしたあらすじは、女子高生が親の仇を取るために、大財閥の坊ちゃんのところへ腹違いの妹として乗り込みにいく、というものです。


よかったところ

不比等(相手の男)と蔦子(主人公)のキャラクター性。蔦子は何でもズバッとものを言うタイプで、少女漫画の「気が強くて明るい女の子」の類型です。クヨクヨ悩むことが少ないのでストーリーもテンポ良く進みます。不比等は頭が切れるという設定はよくある感じですが、掴み所がなく面白い性格です。天才キャラにありがちな冷徹ナルシストぽさはそんなにないです。

・絵柄。古さはあり、そういう意味での好みはかなり分かれそうですが綺麗です。頭身が崩れている印象は受けなかったので、古い絵柄が苦手でも読めそうに思えました。


気になったところ

・後半のストーリーが駆け足すぎる。とくに、不比等のいる秋葉家とライバル関係にあるレオンハルト家が出てきてからの物語は急展開すぎます。さらに終わり方も連載打ち切りか?と言いたくなるレベル(多分そんなことはないと思うんですが……)に丸投げで、やはり少女漫画としては結ばれた後のことをもう少し深堀りしてほしいと思いました。

・恋愛要素が非常に少ない。結ばれたところで物語が完結しており、作中不比等と蔦子はずっと「兄妹」の関係のため、それを逸脱した行為は全くありません。最後に1回キスして終わりです。

・蔦子を除くキャラクターの心情描写が不足している。とくに不比等については、蔦子を妹として迎え入れた最初の場面から、恋愛感情の芽生え・婚約して出て行ってしまった蔦子を取り返すラストシーンに至るまで、全てにおいて心境の変化の描かれ方が圧倒的に足りておらず、なぜそう考えたのか、が全然分かりません。蔦子を家族として信頼していく様子はわかるんですが、恋愛は一体どこから……?という感じです。

・読み切りのコマ割りが、この時代のノリに慣れていないと手こずりそうな感じです。私はリアルタイム世代ではないのでかなり読みづらく感じたし、内容があまり把握できませんでした。ただこれは読み切り特有のスピード感によるもので、本編自体は普通に読めました。


少女漫画らしい設定や絵柄ではありつつも、花とゆめ作品特有の、王道からは少し外した物語でかなり楽しめました。90年代の漫画はまだまだ未開拓なので勉強していきたいところです。